女君を中納言邸から盗み出すのに成功した男君は、彼女を二条殿という邸に据える。他の女を娶る話が来ても見向きもしない。そんな男君が次に取りかかるのが中納言家への仕返しである。もっとも自分がひどい目に遭わされたわけじゃないから、これは妻となった女君に代わっての、代理の復讐だ。頼まれてもいないのにそういうことをやる男みちより。
手はじめには、中納言家の四の君にろくでもない婿を押しつける。いきなりひどすぎる所業。
四の君には、実は当の男君自身との縁談が進んでいた。それを利用して、男君は「面白(おもしろ)の駒(こま)」とあだ名される彼の親戚、兵部の少を焚きつけて自分の替え玉として通わせる。
「面白の駒」というのは、兵部の少の馬みたいな顔をからかってそう呼んでいるのである。人前に出ると笑われるからといって自分の家に引きこもっていた、かわいそうなやつなのだ。そういう意味でここのくだりは二重にひどいよな。直接悪いわけじゃない四の君に望まない男を押しつけることといい、変な顔だからというだけの理由で人を体のいい復讐の道具として使うことといい。男君にしてみれば、北の方が典薬助を使っておちくぼの君にしかけた仕業を、そっくり北の方の愛娘にしかけることで北の方への復讐としているのだろうけどさ。
ここを読むと、源氏物語の末摘花の話も思い出されるが(男女の役割が逆だけど)、あれも器量に恵まれなかった末摘花のほうに同情的なトーンはまったくない(とのことだ、まだちゃんと読んでないけど)。
まあこのへんはけらけらとおおらかに笑って聞ける度量が必要だ。そういう牧歌的な時代でしたということで。翻って考えてみればここに偽善はない。
しかし「わらはずなりにしかばうれしくなん(最後まで笑わないでくれたのがうれしくて)」 (p. 134) などと何も知らずに喜んでいる面白の駒の文などを見ると、やっぱりこの人にはちょっとだけ同情的にもなる。
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