2009年1月5日月曜日

落窪物語導入部

どういう物語か書かずに話を先に進めるところだった。

いまはむかし、中納言なる人の、むすめあまた持(も)給へるおはしき。大君(おほいぎみ)、中の君には婿取りして、西の対(たい)、ひんがしの対にはなばなとして住ませたてまつり給ふに、三、四の君、裳着せたてまつり給はんとて、かしづきそしたまふ。

又、ときどき通ひ給ひけるわかうどほり腹の君とて、母もなき御むすめおはす。北の方、心やいかがおはしけん、仕うまつる御(ご)たちのかずにだにおぼさす、寝殿の放出(はなちいで)の、また一間(ひとま)なる、おちくぼなる所の二間なるになん住ませ給ひける。

きんだちとも言はず、御方とはまして言はせ給ふべくもあらず。名をつけんとすれば、さすがにおとどのおぼす心あるべしとつつみ給ひて、
「おちくぼの君と言へ。」
との給へば、人々もさ言ふ。おとゞもちごよりらうたくやおぼしつかずなりにけむ、まして北の方の御ままにて、わりなきこと多かりけり。

(新日本古典文学大系18『落窪物語 住吉物語』p. 3、一部表記を改める。)

拙訳。

今は昔、姫君をたくさんお抱えの中納言殿がいらっしゃった。大君と中の君にはすでに婿を取らせ、西と東の対にはなばなと住まわせていた。三の君、四の君にもはやく裳着をさせようと、後ろ見に余念がなかった。

中納言殿にはまた、かつてときどき通っていた皇統の女が忘れ形見に残した娘君もいらっしゃった。北の方(正妻)はなにを思ってかこの娘君を屋敷の侍女たちよりもぞんざいに扱い、寝殿から延びる離れの部屋のそのまた端の、落ち窪んだところ二間ばかりを与えてそこに住まわせていた。

北の方はこの娘君を姫と呼びもせず、また娘君に自分のことをお方様と呼ばせることも許さなかった。娘君のことを呼ぶ時には、北の方も中納言殿に気を遣ってのことであろうか、
「おちくぼの君とお言いなさい」
とおっしゃるので、家の者はみなそう呼んでいた。中納言殿もこの娘君が大きくなるにつれて愛情が薄れたのか、北の方のするがままにさせておくので、娘君はいつも理不尽な目に遭わされることばかりであったという。

北の方というのはつまりは継母だ。日本版シンデレラなどといわれたりもするけど、そんな話。継母にいじめられる話というのは王朝物語のひとつの類型だったらしい、というのをどこかで読んだ気がする。まあそれは思い出したときにまた書こう。

しかし手際いい。これは冒頭なんだけど、十行程度でどういう物語がこれから始まるのか、シチュエーションを説明しきっている。始まって20分くらいでヒーローの誕生とその背景を描ききってしまう映画「スパイダーマン」みたいだ。

裳着といのうは、「女子が成人のしるしに初めて裳を着る儀式。十二、三、四歳のころ、結婚前に髪上げの儀式と同時に行った。男子の「元服」にあたる [旺文社 全訳古語辞典第三版]」ものらしい。

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