女君と一緒になって毎日が楽しい男君。
「いといみじき事かな。げにいかにいみじうおぼえ給ふらん。」
など語らひ給ふほどに、中将の君、うちよりいといたう酔ひまかでたまへり。
いと赤らかにきよげにておはして、
「御遊びに召されてこれかれにしいられつる、いとこそ苦しかりつれ。笛仕うまつりて、御ぞかづけ事侍り。」
とて持ておはしたり。ゆるし色のいみじくかうばしきを、
「君にかづけたてまつらん。」
とて、女君にうちかづけ給へば、
「何の禄ならん。」
とてわらひ給ふ。(新日本古典文学大系18『落窪物語 住吉物語』岩波書店、1989年、pp. 158-159)
さて帯刀の母は男君の乳母である。乳母としては男君にはおちくぼの君などという素性の知れない女よりはもっと由緒正しい妻を持ってほしいと考え、時の右大臣の娘との縁談を勝手に進めてしまう。衛門(=あこき)は人の噂から初めてその話を知る。
「君は右大臣殿の婿になり給ふべかなり。この殿に知り給へりや。」
といへば、衛門、あさましと思ひて、
「まださるけしきも聞こえず。たしかなる事か。」
と言へば、
「まことに、四月にとていそぎ給ふ物を。」(同書、p. 160)
衛門から男君の縁談を聞いた女君(=おちくぼの君)の心はふさがる。しかし当人から直接聞いた話でもないので、面と向かってこちらから切り出すこともできない。ラブコメ的誤解の王道。男君は女君の様子が変わってしまったことに戸惑う。
中将、殿にまゐりて、いとおもしろき梅のありけるををりて、 「これ見たまへ。世のつねになん似ぬ。御けしきもこれになぐさみ給へ。」 と言ふ。女君、たゞかく聞こえ給ふ。
うきふしにあひ見ることはなけれども人の心の花は猶うし
(同書、p. 163)
しかしやがて乳母の仕業が明らかになり、男君は女君の誤解を知る。
中将の君は、女君の例のやうならず思ひたるはこの事聞きたるなめり、とおぼしぬ。二条におはして、
「御心のゆかぬ罪を聞き明きらめつるこそうれしけれ。」
女、
「何ごとぞ。」
「右の大殿(おほいどの)の事なりけりな。」
とのたまへば、女、
「そらごと。」
とてほゝ笑みてゐ給へれば、(同書、p. 168)
よかったですね。
ここはとくに言うことはなし。
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