話が前後してしまい申し訳ないんだけど、面白の駒の話のところがけっこう読み応えあっておもしろいのでもうちょっと紹介。面白の駒も気の毒なんだけど、後々の展開を見るに、はるかに可哀想なのはむしろそれを押し当てられた四の君だ。
中納言家四の君のもとに三夜続けて男が通い(当時それが結婚の成立を意味した)、いよいよ親戚一同に新婿のお披露目というところ。
三夜目、中納言や、三の君の夫である蔵人の少将がお祝いのもてなしをしようと男を呼んでみると、その男は面白の駒(兵部の少)であった。ショックを受ける中納言。蔵人の少将などは普段から内裏で面白の駒をからかっていたような男だったから、遠慮もなくげらげらと笑い出す始末である。せっかく用意した宴の席もしらけてしまうが、空気の読めない面白の駒はさっさと四の君の寝所へと乗り込んでいく。
朝、邸の侍女たちも相手が面白の駒とわかると、だれがあんな男にとばかりにまるで世話をしない。それで兵部の少と四の君はいつまでたっても寝所で放置されている。そうして日は高くなり、四の君は寝所に伏したまま、そこで初めて自分が一緒になった異形の男をまざまざと目にするわけである。
恐れをなして寝所を這うように抜け出す四の君に母北の方が駆け寄る。北の方は(男君が兵部の少にした入れ知恵のせいで)娘が本人の意志で面白の駒と付き合ったと思いこんでいるから、どうしてなにも言わないで自分たちに派手なお披露目なんてさせたのかと四の君を責める。男の顔さえいま知ったばかりの四の君はわけもわからず泣くことしかできない。かわいそうだよなあ。
とはいえここは、気弱な中納言、癇癪持ちの北の方、豪胆な蔵人の少将、泣き虫の四の君(そしておめでたい面白の駒)と、各人物の性格が際だっていてうまいところだと思う。長いので引用はしないけど、生き生きとした描写。
さてその後。
夕さり来たるに、四の君泣きてさらにいで給はねば、おとど腹立ち給ひて、
「かくおぼえたまひけん物をば、何しかはしのびては呼び寄せ給ひし。人の知りぬるからにかく言ふは、親、はらからに二方に恥を見せたまはんとや」
と添ひゐて責め給へば、いみじうわびしながら泣く泣く出で給ひぬ。少、泣き給ふをあやしと思ひけれど、物も言はで臥しぬ。
かくをんなもわびしと思ひわび、北の方も取り放ちてんとまどひ給へど、おとどのかくの給ふにつつみて、出で給ふ夜、出で給はぬ夜ありけるに、宿世《すくせ》心憂かりけることは、いつしかとつはり給へば、
「いかでと産《む》ませんと思ふ少将の君の子は出で来で、このしれものの広ごること」
とのたまふを、四の君ことわりにて、いかで死なんと思ふ。
(新日本古典文学大系18『落窪物語 住吉物語』岩波書店、1989年、p. 140、一部表記を改める。)
拙訳。
(兵部の少が)夕方またやって来たものの、四の君は泣いて姿をお見せにならない。父中納言殿がご立腹のあまり四の君の側まで来て
「それほど嫌うような男をどうしてひそかに通わせなどしていたのだ。世間に知られた途端にそんなだだをこねるとは、親兄弟に恥をかかせるおつもりか」
と強く説得なさってようやく、肩を落としたまま泣く泣くお相手に向かわれた。兵部の少は四の君が泣いているのを不思議に思いはしたものの、これといって声をかけることもなく黙って寝所に臥し入った。
こうして四の君は思い沈み、北の方もなんとか別れさせようとあれこれ思い悩み、父中納言殿の言いつけに従ってお相手をする夜もあったが、あれこれ言い繕って姿を見せなかったりもした。しかしなんの宿世であろうか、四の君ははやくも身重の体となっていた。
「どうにかと願った少将の君の子を賜るどころか、この痴れ者の子を持とうとは」
と中納言殿が嘆くのを聞き、四の君は早く死んでしまいたいと思うのであった。
男君は「あとで俺がちゃんと面倒を見るから」とか言っているが、じつはそのフォローは超やっつけである。物語の最後になっても四の君は不憫な目にしか遭わない。脇役だけにそれが顧みられることもなく、ある意味この物語でいちばん可哀想な人かもしれない。それについては後述したい。
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