2009年7月2日木曜日

「花ぞ昔の香に匂ひける」の「花ぞ」を、多くの注釈書が、「花は」と現代語訳しています。「花(ガ)匂ふ」にゾを挿入すると「花ぞ匂ふ」になりますが、「花は匂ふ」にゾを挿入することはありません。「匂ひける」のケルは、それが疑いのない事実であると認識したことを表わしています

ハとガの違いは日本語文法のメイントピックスのひとつなのに、それを混同してしまうのは、疎読、勘読で作り上げた筋書きに合わせて考えているからです。その筋書きとは、人間は裏切るがペットは裏切らない、などという〈~は、~は〉という形式の対比です。こんなことでは、文法的解釈という錦の御旗がボロボロです。間違いのもとは、「人はいさ、心も知らず」をひとまとめに把握してしまったことにあります。上の句と下の句とを安易に対比してしまったことも一因かもしれません。

三上章『象は鼻が長い』〔くろしお出版・1960〕は、日本語文法論のユニークな著作で、古典文法を重んじる立場をとる古語辞典の編者が知らないはずはありません。この本のタイトルの構文は、「ふるさとは花ぞ昔のかに匂ひける」とそっくりです。〈象は鼻長い〉に変えたら意味が違ってしまいます。

(小松英雄『丁寧に読む古典』笠間書院、2008年、pp. 28-29)

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