2009年9月14日月曜日

和歌究竟の秘説

帥大納言云はく、「女房の歌読み懸けたる時は、これを聞かざる由を一両度不審すべし。女房また云ふ。かくのごとく云々する間、風情を廻らし、なほ成らずんばまた問ふ。女房はゆがみて云はず。その間なほ成らずんば、『別の事に侍ひけり』とて逃ぐべし。これ究竟《くつきやう》の秘説なり」と云々。

ある説には、「返歌を髣髴《ほのか》にその事となく云ふを、女房聞かざるの由を云ひて、またみさみさと云ふ。なほ聞かざるの由を云ふ時、『別の事に侍ひけり』とて逃ぐべし」と云々。また同じく、「女房のそへ事云ふには、知らざる事ならば、『さしもさぶらはじ』と答ふべし。いかにも相違なき答」と云々。

先年ある女房の許に小貝卅一に歌を一文字づつ書きて、ある人これを送る。女房予に歌を読み解くべきの由を示す。およそ力及ばず。仍りて萩の枝を折りてその葉にその事となき字を卅一、葉ごとに書きてこれを遣はす。件の所にまた読むことを得ず。両三日を経るの間、萩の葉枯れて字見えず。遺恨となすと云々。一説なり。

(新日本古典文学大系29『袋草紙』、pp. 26-27)

拙訳。

帥大納言(源経信)いわく、「女房が歌を詠んできた時は、聞こえなかったからと一、二度聞き直すとよい。女房がまた言ってくる。そうしている間に(返歌を)あれこれ推敲して、まだできなければもう一度聞き直す。そのうち女房のほうはふてくされて言ってくれなくなるが、それでもまだできあがらなければ『別の用事を思い出しました』といって逃げればよい。これ究竟の秘説である」と。

またある説には、「返歌を小さな声で、なにを言っているのかわからないくらいで言うと、女房は聞こえませんでしたと言ってくるから、またごにょごにょと言う。しつこく聞き返してきたら『別の用事を思い出しました』と言って逃げるべし」と。また同様に、「女房がなにか利発なことを言ってきたものの、意味がよくわからないという時には、『ははは、そんなことはありますまい』と言っておけばよい。たいていの場合はうまくはまってくれる」という。

先年、ある人がある女房のもとに小貝三十一枚に歌を一文字ずつ書いて送ってきた。女房は書かれた歌を読み解いてくれと、私のところにそれを持ってきた。さっぱりわからない。そこで萩の枝を折って、その葉の一枚一枚に、三十一文字、でたらめに書き付けてその女房に送ってやることにした。先方もさっぱり読み取ることができない。二、三日もすれば、萩の葉のほうは枯れてしまって、なんの字が書いてあったかもわからなくなる。してやられたと悔しがっていたが、これも一つの手である。

こいつらなにやってんだ。

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